税金
2018/01/22

所得税 VS 法人税 不動産投資は個人と法人、どっちがお得?

(写真=Brian A Jackson/Shutterstock.com)
(写真=Brian A Jackson/Shutterstock.com)
「不動産投資を始めよう!」というときに、法人を設立したいと考える人も多いようです。その理由にはさまざまなものがありますが、個人で物件を所有することとのもっとも大きな違いは税制にあります。法人にかかる法人税と個人にかかる所得税は別の法律で規定されており、根本的に異なります。今回は、税金を中心に、両者にどのような差があるのかを検証します。

賃料収入にかかる税金


税金計算の基本的な考え方は法人も個人も同じです。

・ 収入-経費=所得(いわゆる利益)
・ 所得×税率=税金額


法人と個人では、これらの要素のうち「何が経費にあたるか」「税率はどうやって決まるか」などの考え方が異なるため、最終的に納める税金に違いが生じるのです。

・ 個人名義物件の賃料収入にかかる所得税と住民税
家賃収入(インカムゲイン)は個人の場合、10種類に分けられる所得税のうち不動産所得に該当します。不動産所得は、家賃収入に礼金や更新料を加えた収入から、修繕費や減価償却費などの経費を差し引いて算出することが一般的です。税率は、所得の金額によって決まる累進課税です。

総合課税といって、給与所得と事業所得、不動産所得などを合算し、配偶者控除や社会保険料控除などの所得控除を差し引いた総所得金額によって決まります。後述する売却益は、総合課税の対象とならず、個別の処理です。住民税については、ほぼ一律で10%になります。

例えば、年間の給与所得が600万円、不動産所得が250万円、所得控除が200万円という人の場合、総所得は次のとおりです。

・600万円(給与所得)+250万円(不動産所得)-200万円(所得控除)=650万円(総所得金額)

総所得金額となる650万円について、速算表より税率と控除額を調べます。下記の表から、330万円を超え695万円以下の場合、所得税率は20%、控除金額は42万7,500円です。住民税10%と合わせて合計で約30%となります。
出典:国税庁ホームページ

・ 法人の実効税率
個人の賃料収入と売却益にかかる税金はそれぞれ別に計算しますが、法人の場合は所得の内容による区分は基本的にありません。一期間における全ての収入と経費を合算した所得金額(いわゆる純利益)に対してかかります。

法人税は「資本金1億円以下の中小法人にあたるか」「それ以外の普通法人か」で税率などが変わります。2018年4月1日以降に開始する事業年度についての税率は次のとおりです。

・ 中小法人の所得800万円以下の部分:19%(2019年3月31日までに開始した事業年度については15%)
・ 普通法人、または中小法人の所得800万円超の部分:23.2%


その他、法人地方税、法人事業税、地方法人特別税などが発生します。最終的にかかる税率の合計を実効税率といいます。法人税の実効税率は2018年度以降、普通法人の場合で29.74%です。中小法人の場合は所得によって異なりますが、年間800万円までの場合で26~28%、800万円超の場合で33%ほどになります。

賃料収入にかかる税率だけをみると、個人と法人のどちらが得なのでしょうか。法人税は、およそ26~33%です。所得税は、給与所得と不動産所得、所得控除の合計額が695万円超~900万円で23%となり、住民税の10%を含めれば約33%になります。そのため、この水準の総所得金額が分かれ目になるといえるでしょう。

実際には、税率以外にも多くの細かな違いがあるので一概にはいえません。しかし、給与所得控除などを考慮すると、給料と賃料純収入の合計が1,000万円くらいになると法人を設立したほうが得になる可能性があります。もし、自分で判断ができないときは、税理士などに相談してみましょう。

売却収入にかかる税金


売却で利益が出た場合はどうなるのでしょうか。法人税上は賃料収入も売却収入も同じように取り扱われます。もし、売却損が出たら賃料収入による利益と相殺することによって、最終的な税金が少なくなることもあるでしょう。しかし、所得税の場合、不動産売却による収入は譲渡所得として扱われます。不動産所得とは切り離して考えるので、売却損が出たとしても節税効果はありません。

不動産の譲渡所得は保有期間によって短期譲渡所得と長期譲渡所得の2種類があります。購入した年から数えて5年後の12月31日までに売却すると短期譲渡所得です。それ以降は長期譲渡所得となります。税率はそれぞれ次のとおりです。

・ 短期譲渡所得……39.63%(所得税30%+住民税9%+復興所得税)
・ 長期譲渡所得……20.315%(所得税15%+住民税5%+復興所得税)


法人税の実効税率は先ほどみたとおり、30%前後でした。したがって、5年を超えて保有する場合は個人のほうが得ということになります。

赤字になったときにはどうなる?


不動産投資では赤字が発生することもあるでしょう。特に、修繕費や取得費などの経費がかさむ物件取得の年にありがちです。個人の場合、不動産所得の赤字は、前述のとおり給与所得から差し引くことができます。差し引ききれなかった場合、3年間繰り越すことも可能です。しかし、法人の場合は、個人の所得とは独立して考えるため、赤字が出ても他と合算することはできません。

ただし、来年以降に損失を繰り越すことができます。2018年4月1日以降に開始する事業年度における繰り越し可能期間は10年間です。例えば、1年目に経費がかさみ200万円の赤字が出たときなどは、個人の場合、給与所得から差し引くことになります。

法人の場合は、来年以降に利益が出たときに、赤字200万円に対して相殺することが可能です。2年目が100万円、3年目100万円の利益が出たとすると、1年目に繰り越しした200万円の赤字を充当することによって、所得がゼロになります。一応、制度上は繰り越し可能期間が長い法人のほうが有利です。しかし、給与所得を超えるような大赤字を出すようなことは、あまり考えられないので、両者の差はあまりないといっていいでしょう。

経費の取り扱いはどう違う?


経費を幅広く計上するために法人を設立するという人もいるでしょう。個人における不動産所得の計算上、経費として認められるものは「不動産収入を得るために直接な費用」に限ります。ところが、法人の場合は直接・間接に発生したさまざまな費用を計上できるのです。例えば、生命保険がわかりやすいといえます。総所得金額から所得控除ができる生命保険料控除は年間で最大12万円までですが、法人名義の契約で経費として計上できる金額には上限がありません。

また、電話代や事務所の賃料などを個人の所得税計算上の経費にするためには、不動産賃貸業のためにかかったものかどうか明確に区分しなければなりません。法人名義にすれば原則的に経費となります。しかし、度が過ぎると税務調査が入ったときに指摘を受けて給与扱いになる場合もありますので、生活費のほとんどを法人で負担するというようなことはしないでください。例えば、自宅を会社名義で契約し、全額経費とするというのは避けたほうが賢明です。

法人に蓄積した利益を、数十年後に退職金として自分に支払うという手もあります。退職所得は所得税の控除額が大きく、法人としても経費に計上できるので、節税メリットが出ることがあるのです。経費に計上できる範囲の広さとしては、法人に軍配が上がると考えてよいでしょう。

所得がなくてもかかる税金


法人の実効税率はケース・バイ・ケースで個人の所得税を下回ることがあるということをみてきました。しかし、法人化することで、個人では発生しなかった税金がかかります。それが法人税の均等割です。均等割は所得の額にかかわらず、会社の規模や形態に応じた一定がかかる地方税になります。東京都23区の場合、資本金1,000万円以下の法人で年間7万円発生します。赤字の場合でもかかってしまう、いわば固定費です。

法人化するにあたっては、この記事で紹介するような細かい個別事情を吟味する必要があります。発生するメリットが均等割のように「確実にかかる費用を回収できるかどうか」がポイントの1つです。

法人化にかかる費用


法人化する際に必ずかかる費用として、もうひとつ挙げられるのが、設立費用です。株式会社の場合は登録免許税が15万円かかります。定款認証代は9万円ですが、電子認証を利用すれば5万円となり、少なくとも合計20万円が必ずかかるわけです。さらに、司法書士や行政書士へ代行を依頼すれば、もっと費用がかかります。

設立費用をもっと安く済ませたいという人は、合名会社にするのもいいでしょう。登録免許税は6万円で、定款認証代はかかりません。株式会社のほうが信用度の高いというメリットを挙げる人もいますが、不動産賃貸業においての差はあまりないでしょう。

また、法人化すると経理処理が複雑になるため、税理士を雇う必要が出てきます。自力でやる人もいますが、費用対効果を考えると外注したほうが賢明でしょう。売り上げ規模や地域によっても異なりますが、月額で2万円程度、決算が10万円程度、年間合計計で30万円くらいが一般的な相場です。これが法人と個人のどちらが得なのか判断するときに考慮すべき法人のデメリットといえます。

相続対策は法人化で


超高齢化社会の中、不動産の購入は相続税対策になるということを耳にする機会は多いでしょう。確かに、土地と建物は現金よりも税金計算上の資産額が低くみられるので、相続税額を圧縮する効果は大きいといえます。

しかし、不動産の相続手続きは煩雑です。少し事情は違うかもしれませんが、相続する人がいない所有者不明の空き家が社会問題となっています。また、相続人が何人もいた場合、「どの資産を誰が手に入れるのか」で、もめることがあるかもしれません。

不動産を全て株式会社に持たせておけば、残された人たちの手続きや分割は、ずっと簡単になるでしょう。物件の最寄りの法務局で登記をする必要はなく、株式の名義書換だけで済みます。また、株数によって均等割りすることができるので、分割も容易です。法人化は、相続手続きの簡素化に役立つといえます。

かつては法人設立で簡単に消費税分を得することができた


数年前に書かれた不動産投資の本を読んだり、ベテラン大家さんの話を聞いたりすると、消費税の還付を受けるために法人を設立したという話が出てくるかもしれません。この方法は、2017年時点での法制上は難しいのですが、気になる人もいると思うので、どのようなカラクリかを説明します。

消費税を負担するのは文字通り個人消費者ですが、直接税務署に支払いに行くことはありません。消費者から受け取ったお店(事業者)が代わりに納税します。その際、事業者が支払った消費税を差し引いて納めます。例えば、仕入れが108万円(うち消費税8万円)、売り上げが162万円(うち消費税12万円)だったとき、お店は12万円-8万円=4万円を税務署に納付するわけです。

逆に、支払った消費税のほうが多ければ還付を受けることができます。実は不動産賃貸業は受け取る消費税よりも支払う消費税のほうがはるかに多い仕組みになっています。なぜなら、家賃には消費税がかからず、建物の取得には高額の消費税がかかるからです。ただし、売り上げが1,000万円未満の自営業者などは免税事業者と呼ばれ、消費税を納付する義務がない代わりに還付を受けることもできません。

そこで、新規に法人を設立して、課税事業者になることを選択することで、目的を達成することができたのです。例えば、法人を設立して課税事業者を選択、1億500万円(うち消費税500万円)の建物を購入します。そして、還付申請を行い、500万円の還付を受けるという流れです。

2016年以降に改正された消費税法


このような消費税の還付は、2016年の税制改正以降、基本的にできなくなりました。還付はされるものの、3年後に返金しなければならないような仕組みになったのです。この仕組みを知るためには、もう少し消費税について詳しく理解する必要があります。前述の方法で還付を受けるためには課税売上割合の調整という、もうワンステップを踏まなければなりません。

建物を購入するときに多額の消費税を支払うといっても、それだけでは単純に還付を受けることができません。なぜなら、全売り上げに占める課税売上(消費税がかかる売り上げ)の割合によって還付を受けられる(納付額から差し引ける)金額が決まるからです。つまり、収入の全てが家賃だと、還付を受けることができません。

そこで、新設法人1年目は何らかの方法で課税売上を発生させ、課税売上割合を高めて消費税を還付します。それ以降は、また免税事業者に戻るという流れが必要だったのです。課税売上のわかりやすい例は自動販売機でしょう。飲料には居住用の家賃と違って消費税がかかるので、設置して1本でも売れて、他の収入がなければ、課税売上割合は100%となり、支払った消費税全額の還付を受けることができます。

ところで、消費税課税事業者の場合、課税売上割合が大きく変動したときには、3年目に調整する必要があります。簡単にいうと、課税売上割合を3年間の合計で計算し直すので、居住用不動産賃貸業の場合は限りなくゼロに近くなるのです。これを逃れるためには、3年目に免税事業者に戻らなければならないのです。

この「調整逃れ」を阻止するために、2016年の法改正が行われました。建物のような高額な資産を取得してから3年間は、免税事業者に戻れないということになったのです。長くなってきたのでまとめます。

<従来の還付の流れ>
1. 法人を設立し、課税事業者を選択
2. 建物を購入し、自動販売機を設置。課税売上をあげる
3. 家賃収入が発生する前に決算。消費税の還付を受ける
4. 賃貸経営を開始
5. 2期目が終了したら、免税事業者に戻る
(2016年改正によって、不可になり、戻れないと3年目に調整を行い還付された消費税を返還する必要が生じる)

自動販売機の設置などで簡単に還付を受けることは難しい現状です。しかし、全く方法がないわけではありません。次のようなことで課税売上割合を維持できれば可能性があります。

・ 店舗や事務所の賃貸を行う(これらは消費税課税のため)
・ 課税売上となる他の事業を行う(たいていの物品販売やサービス業は消費税課税事業です)
・ 建物の売買を繰り返す(もはや不動産業者です。宅建業免許は必須です)

所得税に関するものだけでなく、法人設立にはいろいろなメリット・デメリットがある


「所得税と法人税、どちらが得か?」をテーマに、不動産投資で法人を設立することのメリットとデメリットを紹介しました。まず、税率については年収1,000万円という目安はあるものの、実際に計算してみないとわからない部分があるでしょう。また、法人は経費として計上できる範囲が広いものの、赤字でも納めなければならない均等割という税金や、設立費用、経理処理の費用が発生します。

かつては受けることができた消費税の還付も、簡単にはできなくなっている傾向です。家族のことを考えると、法人設立には相続手続きが容易になるというメリットがあります。そのため、法人化をめぐるメリット・デメリットの問題は奥が深く、一概にどちらが得かいえるものではありません。不動産や相続を得意とする税理士など、専門家に相談しながら検討してください。
 

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